歩む道の先には 後編
あれから数ヵ月後・・・
???:アレは、無事消去されました
本土より駆けつけた学者のお偉いさんと応援部隊により、あの大蜘蛛は撃退できたとの報告を受けたが、
ハイはどこかしら上の空だった。それは、ハイの横に座っている乃卯香も同じであったが。
クロノの腕は結局あのままであった。
本人は痛みもない為、いくらかましだったとやや自虐的に笑ってはいたが・・・今思えば確かにあの時、
クロノに出血や痛がる素振りや出血などは無かった。
それからというもの・・・クロノは冒険に出られないせいか、あの日から終日調べ物をしている。
特に一ヶ月程前、何かの古い書物を見つけてからは、自分の時間は大半を書庫で過ごしている様だ。
仲間がそんな調子ではハイと乃卯香もいまいち気分が上がらず、4人が必要最低限食べていける程度の狩りしか行っていない。
事の顛末を報告しに来たカシコスと名乗る学者は、二人にかまわず淡々と事実だけを述べてゆく。
カシコス:まず・・・あれはモンスターではありません。
この世界の歪みから生まれたとでもいうのでしょうか・・・我々はあの類の存在を『バグ』と呼んでいます
ぴく、と乃卯香が反応した
カシコス:この世界に反する存在や行為が認められた場合において、バグはその土地に自然発生します。
カシコス:そして身近にある物質をデータとして採取・吸収し、歪みを正常な存在に近づけていくのです。
カシコス:貴方のお仲間の武器や体の一部も、物質データとして吸収されたのでしょう。
そこでふと隣を見たハイは、乃卯香と目が合った。
乃卯香:ハイちゃん・・・
アルプス・ハイ:続けてくれ
乃卯香は何か言いたげだったが、カシコスに説明を促す
カシコス:・・・バグを沈静化させるには、2つの方法をとらないとなりません
カシコス:ひとつは、バグに対し正常な物質データを与え、バグを消去する事
カシコス:もうひとつは・・・バグの原因となった存在、若しくはその行為の原因となるモノの抹消です
カシコスの指すモノというのが物であるのか、それとも者であるのか
それを聞くのは躊躇われた
カシコス:バグは一度発生すると、その地に根強く残ります
カシコス:元となるバグは消去されましたが、今後はおそらく十数年・・・この地に足を踏み入れる冒険者にとって
多少の違和感と言うか、バグの浄化作用による『酔い』が発生するかと思われます
カシコス:良くて手足や視界の硬直、慣れていない者だとそのまま意識を失ってしまう程の強い『酔い』が
確かに、ここ最近トンカに送られてきた調査団や仕入れ業者の中には、
トンカに降り立ったときの飛空庭酔いが強くなったのではないか、とのボヤキを聞いたこともあるし、
ハイ達も店への出入りなんかの際に立ちくらみに似た感覚を感じることはあった
お互いに疲れているのか、とでも思っていたのだが・・・
カシコス:貴方達も何か情報をつかんだ場合、事態解決に向けてどうか協力して下さい
眼鏡の奥底に光る、何もかも見透かしたような目がハイにとっては気に入らないが
アルプス・ハイ:・・・・・・判った
今は、そう答えるだけで精一杯であった。
集会所から外に出ると、雨が降っていた
乃卯香:・・・あー、雨か・・・ハイちゃん、憑依させて?
アルプス・ハイ:いや、お前傘持ってたじゃん
乃卯香:いいじゃん、あたし荷物持つからー
アルプス・ハイ:いや、だからお前は傘持ってて俺は傘持ってないのに何で俺が?
乃卯香:ポイチョ (=。=)ノ 〜〜傘
乃卯香は地面に傘を置くと、すばやくハイの胸元へ潜り込んだ
一瞬、憑依解除という手もあったのだが
アルプス・ハイ:てめぇ・・・まぁ、いいか
落ちた傘を拾い、雨の中を歩き出した
しばし歩いたところで、ハイがポツリと口を開いた
アルプス・ハイ:乃卯香
乃卯香:・・・・・・何?
それに答える声は、いつもの乃卯香に比べると少々弱々しく聞こえる
アルプス・ハイ:気のせいかもしれんが・・・お前、色々と無理してないか?
乃卯香:・・・きっと気のせいよ・・・
アルプス・ハイ:そうか
しばしの沈黙
アルプス・ハイ:乃卯香
ハイは、さっきよりも強い口調で話しかけた
乃卯香:・・・・・・さっきから何なのよ?
乃卯香の口調にわずかばかり刺々しいものが混ざる
アルプス・ハイ:泣いても構わんぞ?
乃卯香:・・・何であたしが泣かなきゃいけないのよ?
アルプス・ハイ:俺は泣けと言ってるんじゃない。泣いても構わんと言ってるだけだ
乃卯香:・・・言葉遊びのつもり?馬鹿みたい・・・全然訳わかんない・・・
アルプス・ハイ:俺はお前じゃないから、おまえ自身が違うというのなら断言はできん
だがな、俺はお前以外のエミル族でお前の事を一番よく知っているつもりだ
しゅるん
乃卯香:・・・ハイ、あんたあたしの親にでもなったつもり?
乃卯香は憑依解除するや否や、ハイに詰め寄る
咄嗟のことで驚いたせいか、その手から傘が離れた
乃卯香:中途半端な優しさであたしの反応見てそんなに楽しい!?
乃卯香:もうどうでもいいよ!あたしの事も!未来の事も!何も考えたくないの!!
アルプス・ハイ:やめろ
静かな一声であったが、乃卯香は思わず口をつぐむ
アルプス・ハイ:嘘はお前らしくないぜ?
ハイは乃卯香の肩に両手を置き、こちらを向かせた
乃卯香の瞳を正面から見据える
アルプス・ハイ:そろそろ、今度についてハラくくらにゃならんところまで来てるんだよ、俺達は・・・
その言葉に乃卯香は顔を伏せたが、ハイはかまわず話し続けた
アルプス・ハイ:俺も覚悟を決める。未来が暗いものであろうとも・・・それが運命とでも言うのなら、
俺は強くなってその運命とやらを変えてみせる。・・・まぁ、それが叶うかどうかは・・・神のみぞ知る、だがな
いつの間にか日も落ち、若干の雨も降っているせいか・・・
ハイと乃卯香を残し、あたりからはいつの間にか人通りは消えてしまっていた
アルプス・ハイ:今までの楽しかった生活を壊したくない。いつまでも淡い夢を見続けていきたい。だが、それでは前に進めない。
たとえ傷付いても、傷付きながら前を向いていかなきゃいけないんじゃないのか?
乃卯香:・・・うん・・・
顔を上げた乃卯香の目に、迷いは無かった
乃卯香:あたし、ついていくよ?どんな辛い・・・世界の闇の中でさえ、きっとハイは私達を照らしてくれる、
どんな未来が待っていても、その果てを超えていける
ぽすっ
乃卯香:でも・・・
乃卯香はハイの胸に頭を預ける
乃卯香:ひとつだけいい?
表情は見えなかったが、その声色でハイは察した
アルプス・ハイ:・・・ああ、いいぞ
乃卯香は顔を伏せたまま、ふたたびハイの懐へ潜り込む
乃卯香:いい?もし憑依解除なんかしたらベアバスターチョップ程度じゃ許さないからね!本気だからね!?
アルプス・ハイ:わかったから・・・無理するな。雨音で何も聞こえねぇから
傘を拾い上げると、左手でアクセサリにそっと触れつつ、ハイは少し歩調をゆるめた
白のウテナ:おかえりなさい、二人とも
飛空庭に着くと、赤子を抱えたウテナが迎え入れてくれた
乃卯香:ウナちゃん赤ちゃんただい(*・ω・)ノ
ヤァ 今日はね、いつもより上等な肉が取れたんだよー
テーブルの上に、集会所に寄る前狩って来た食料を置き、乃卯香は楽しそうに赤子のほっぺをぷにぷにする
白のウテナ:いつもありがとう・・・今日は遅かったから、もう料理はできているのよ
白のウテナ:このお肉は明日、おいしいカレーにしてしまいましょうか
ク口ノ:おお、帰ってきたのか・・・いつもすまないな、二人とも
会話を聞いてか、クロノも部屋から姿を現した。ここ最近顔色が悪いように感じていたが、何かに吹っ切れたかの様な表情だった
乃卯香:ハイ・・・
アルプス・ハイ:乃卯香
乃卯香:・・・わかってるけどさ・・・
白のウテナ:どうしたんですか?二人とも・・・
ウテナは、二人の間に漂う空気が今までのものと違うと感じたと同時に、別の違和感も覚え、怪訝そうに伺う
アルプス・ハイ:ク口ノ
ク口ノ:なんだ?
アルプス・ハイ:お前にひとつ、話がある
ク口ノ:ちょうどいい、俺もお前に頼みがあったんだ。お前から先に言えよ
アルプス・ハイ:お前・・・今すぐここから出て行け
続く・・・
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