紅キ雪(最終章)
雪灯:うあ・・・でっかい蜘蛛?
雪灯の喩えたとおり、かなり大きいが、ぱっと見たところ蜘蛛にしか見えない
だが、何かが紅牙の警戒心を解くことが許さなかった
こーが:(((つ`・ω・´)っ
紅牙:おい犬!不用意に近づくな!
単調な行程ばかり続いたせいか、雪灯もこーがも明らかに警戒心が薄れていた。いまや陣形も解けている
そして、それがまずかった
じゅるるっっ!!
いきなり大蜘蛛が大きく波打つと、背中から生える一本の触手
払うように振られた触手に、こーがは吹っ飛ばされる
紅牙はこーがをかばうように飛び出し受け止めたものの、その衝撃で壁にぶつかり、短剣を取り落とした
当たり所がよくなかったのか、硬直してしまっている
追撃をかける触手に対し、雪灯は声を張り上げた
雪灯:こーが!
こーが:ヽ(>ω<ヽ))))
こーがは雪灯の元へ駆け寄った
大蜘蛛の注意が紅牙からこーがへ、そして雪灯へと逸れる
雪灯はこーがをバックパックに戻した
雪灯:これでこーがは直撃を受けずにすむ・・・紅牙を頼んだよ
雪灯:さぁ、こい!
んで、ものの見事に触手の一撃を受けた
雪灯:ひゃああああ!?
紅牙:ヴァカ野郎おおぉぉ!!雪灯ぃ!何をやってる!ふざけるな!
だが、そのやりとりの間に紅牙は短剣を構えなおし、臨戦態勢をとっていた
紅牙の体勢を整える時間稼ぎとしては、比較的正しい判断だったと言える
雪灯:意外とまじめだったんだけどな・・・じゃあ紅牙、助・・・
と
そこで雪灯の言葉が詰まり、きょとんとした顔つきになる
・・・が、だんだんとそれが苦悶の表情へと変わりつつあった
雪灯:・・・っ・・・・・・ぁあぁ・・・?
紅牙の反応は素早かった・・・が、判断は少々遅れてしまっていた
放った一撃は、牽制するかのような触手に阻まれる
紅牙:くそっ・・・
幾度となく斬りかかるが、さしたるダメージを負わせているようにも見えない
紅牙:(まずいな・・・)
額に、いやな汗が混じり始めていた
敵の攻撃を潜り抜け、斬りつけ、離脱
そういったヒットアンドアウェイの攻撃を幾度繰り返したであろうか・・・
確実に当たってはいる
・・・が、効果があったかといえば・・・正直なところ、微々たる物であろう
攻防の最中でも、雪灯の押し殺したうめき声が聞こえてくる
それがまた紅牙の集中力を乱しているのに気付いていないのは、当の本人だけであった
雪灯:こ、紅牙・・・もう・・・いいから・・・
紅牙:・・・・・・・・・
雪灯からしてみれば、せめて紅牙だけでも、と言うただそれだけの理由であろう
だがその言葉を聴いた途端、紅牙の中で何かが弾けた
雪灯:逃げ・・・
紅牙:・・・黙れっ!
突如響いたその声に、雪灯はびくっと肩を震わせる
紅牙自身、今までにこんなに声を荒げた事は無かった
紅牙:誰かの命を犠牲に、誰かが助かる!?ああ、至極当然な理屈だろうよ!
・・・だがな、俺はここでそんな答えは選ばねぇぞ!
目標らしい目標も定めずに飛び交う触手を短剣で切り刻みながら、紅牙はまっすぐに雪灯を見定めていた
紅牙:で、何か反論はあるか!?
帰ってきたのは、捨てられた子犬のような弱々しい視線
紅牙:バカ野郎!まだ躊躇ってんのか!
怒鳴る紅牙に反応したのか、大蜘蛛の触手の一部が紅牙に向かう!
紅牙:っ!?
なおも増す攻撃。
だが、紅牙の目には雪灯しか映っていなかった
初めて出来た、守るべき者
紅牙:ぐぅっ・・・負けて・・・られるかよ!
紅牙は短剣を右手に逆手で構え、左手を柄に添える
手数を捨て、渾身の一撃を放つ際の紅牙の構えであった
そもそも・・・力がなく一撃が軽い雪灯でも、なんとか狩りが出来る様にと考え、教えたのが始まりであったのだが
大蜘蛛の紅牙に対する攻撃の手が、止んだ
紅牙:お前には俺が必要だ!違うか!?
雪灯は無言で首を横に振る
紅牙:んで、だ!それと同じように、俺にはお前が必要なんだ!解るか!!
今度は、首を縦に振って頷く
その目には、紅牙の目から見ても判る程、涙があふれていた
雪灯:・・・ああ・・・
大蜘蛛がひときわ大きく波打つと
雪灯:やっと言ってくれたね・・・あたしが欲しかった言葉
無数の触手が、言葉通り大蜘蛛の全身から生えた
雪灯:ありがとう
雪灯は、にっこりと微笑んだ
二人が出会った時と同じ笑顔で
その時とは異なる感情を胸に
雪灯:・・・そして・・・
大蜘蛛が、全ての触手を雪灯に向かい、一斉に伸ばす
紅牙:やめろおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!
ブラッドファングを振りかざしながら、紅牙はバグに向かって吼え、跳んだ
雪灯:・・・・・・・・・さよなら
後編に戻る エピローグへ続く