紅キ雪 〜雪解けの時〜
ヴァレリア:お客さーん、大丈夫?
その声で、はっと我に返った
若干湿っていた目元を素早く拭う
あの時
差し伸ばされた手は、届かなかった
紅牙が吸い寄せられるような軌跡を描き、あの大蜘蛛と交差した瞬間
視界はすべて光に包まれ、目を開けているのか閉じているのか・・・それすらわからない程の真っ白な世界の中
目に映ったものは、紅く散る粒子
それは、白銀の世界に舞う紅い雪の様に感じた
何かしらのスキルエフェクトなのか、それともあの大蜘蛛に関する何かなのか・・・今となってはわからない
最後のやりとりの辺りで、相手の行動に不自然な動きがあった気がするのだが・・・
目が覚めると、そこは洞窟ではなくトンカ島の森の中であった。位置的には例の洞窟のちょうど真上あたりだったと記憶している
周りを見渡してもあいつの姿は見つからず、代わりにあの時の短剣が一本、落ちていた
刀身からは紅い光を放っていた、真新しいあの短剣
最後に見た雪と同じ、あの色――
ヴァレリア:・・・本当に大丈夫なの?
ヴァレリアは再度問いかけてくるが、もう大丈夫だ
嘆くより、その経験を生かし、前を向いたほうがあいつも喜んでくれるはずだから
どうやら吹雪も止んだようである
かつては少女であった雪灯は、席を立った
雪灯:私なら平気・・・行くよ、紅牙
紅牙:( `・ω・’)ゝ
あの時、壊れた為に新調したネームプレートに書かれた『紅牙』の文字
当時は幼かったバウバウも、今ではあいつに代わる狩りの相棒である
雪灯:いつだってあいつは・・・ここと
ちらり、と腰に差した短剣『ブラッドファング』に視線を移し
雪灯:・・・ここに、いるのだから
胸に手をあてがい、空を見上げた
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